「もしもし、雪貴?
今、電話平気?」
そうやって電話してきた、
音弥の声は、余裕がなさそうで
それだけで不安になる。
「もしかして、
唯ちゃんになんかあった?」
震える声で問いかける俺に、
裕先生も心配そうに俺を見つめる。
「臨時講師の土岐【とき】が、
唯ちゃんのマンション周辺を
うろついてるのを見かけた。
土岐が来るようになって、
唯ちゃんもいつと様子が違ってる。
なんか俺には怯えてるように見える。
雪貴から頼まれて、
任せろって言ったわりには
何も出来てねぇよな。
唯ちゃんが本音を吐き出せるのは
やっぱりお前だけなんじゃねぇ?
まっ、俺も引き続き気にかけとくけどな」
それだけ告げると、音弥は電話を切った。
「唯香さんがどうかしたの?」
俺を気遣うように話しかける裕先生。
「あっ、電話。
音弥からだったんです。
産休の先生のかわりに着任した臨時講師が
ちょっと唯ちゃんにチョッカイ出してるみたいで。
土岐悠太って言ってたかな。
その人が来てから、
唯ちゃんの様子がおかしいって」
もっと近くに……
留学になんてしないで、
俺が唯ちゃんの傍に居ることが出来たら
一人で苦しめることなんてなかったのか?
怯えさせることもなかたのか?
溜まりかねて、
唯ちゃんの携帯電話を呼び出してみるものの
今日も唯ちゃんが電話に出る気配はない。



