親しげに介抱しようと
手を差し伸べてくるアイツの腕を
声にならない声で拒絶するだけで。






硬直した体が
ほんの少し解放された瞬間、
私は力を振り絞って、  
アイツの傍からかけ離れて、
家へと駆け戻った。






そのまま体調不良を理由に
学校に欠勤する旨を伝えて
玄関の鍵をしっかりと閉じる。







何もかもアイツにばれてる。




私の家も、
雪貴との関係も、
雪貴と過ごしてたマンションさえ。



弱りだした心を支えるために、
時折、雪貴のマンションを訪ねることすら
もう選択できない。





私とアイツの問題に、
雪貴を巻き込むなんて出来ない。






アイツの声を聞いたとたんに、
久しぶりにフラッシュバックしてきたのは、
初めて告白した日、
返事と同時に突然、
体の関係を求めてきた獣のアイツ。







確かに……アイツに一瞬でも憧れて
恋をしたと感じた私も、
今だからこそバカだと思うけど、
その時の私の純粋な気持ちを
一瞬のうちに壊したアイツ。




嫌がる私の洋服をナイフで引き裂いて、
体育館の準備室で、
獣になったアイツ。



痛みと気持ち悪さだけが残った
それは、私を人生の絶望へと
突き落とした。





そんな苦しみと恐怖から、
助けてくれた、隆雪さんと雪貴。






もう大丈夫だと思ってたのに……。