「おはよう、唯香」




慣れ慣れしい口調で、
突然現れたアイツ。


アイツは私の隣に肩を並べて
近づいていく。



「おはようございます。
 急いでるんで、失礼します」



関わりたくない一身で、
早歩きする私をアイツは
背後から意味深な言葉で呼び止めた。



「何?
 唯香、今は一人暮らしなんだ。

 君の教え子のマンションで、
 暮らしてないの?」




背後から突き刺された言葉に、
私は何も言えぬまま立ち止まった。



「確か、唯香の生徒なんだよね。

 この子って、
 Ansyalのギターリストだっけ?」




そう言いながらアイツが
私の前に突き出した携帯画面には、
雪貴が退院して間もない頃の、
買い物写真。




「何?
 こ……こんな写真見せて、
 今更、私の前に現れて何しようって言うの?」

「別に……。

 ただ壊したいだけだよ。
 あの頃みたいに、唯香をさ」




そう告げたアイツの言葉に、
私の時間は一気に過去に引き戻された。




震えだした体は、
自分の思い通りには動いてくれない。



まともに息がすえない私は、
ただその場に
うずくまることしか出来なくて。