「おはよう、霧生くん。
 怖い顔して、どうかした?」


アイツと再会して
パニックになってる自分を
知られたくなくて、
平静さ保ちながら言葉を返す。


「どうかしたじゃないよ。
 唯ちゃんの後ろのアイツ何?

 アイツが唯ちゃん見てる視線、
 イッてるよ。

 唯ちゃんも雪貴居なくて
 泣きそうな顔してんじゃん」



そう言いながら、
霧生くんは、
私をあやすように声をかける。


「ったく、先生をからかうなって
 言ってるでしょ」

「唯ちゃんが行くなって、
 言ってたら雪貴は
 留学行かなかったでしょ。

 なんで言わなかったの?」



なんてサラリとキツイ一言。


「雪貴の夢を潰したくないから。

 雪貴の未来の可能性を
 摘めるわけないよ。

 誰よりも近くで、
 見守ってるのに。

 大丈夫だって。

 霧生くんも居るし、
 仕事もしてる、
 ウチのクラスは優秀だし」


「大丈夫よ。

 霧生くんたちもいるし、
 仕事なんてしてたら、
 一年なんて早いもん」


一年なんて
たった365日。



「唯ちゃんがそうならいいけど。

 雪貴からは一年、
 唯ちゃんのボディガード頼まれてるから
 精々、守ってやるよ。

 さっきみたいにさ。

 アイツには気を付けな」


霧生くんからの警告を受けてすぐ、
時間を告げる琴の音が
校内に鳴り響く。



慌てて教室へと私も急ぐ。



クラス内、
雪貴が座って笑っていた
あの場所は空席のまま。



弱ってる時は、
やっぱり会いたかったな。


「起立・礼・着席」


っと流れ作業のように、
声を出した霧生くん。



「あっ、今日休んでるやついる?」


出席をとる前に、
グルリと周囲を
見渡しながらに呟く霧生くん。



「留学行った、
 宮向井以外は全員いるよ」

「ってか、凄いよなー。
 俺らのボスは」


なんで口々に、
雪貴の話題で教室中が盛り上がる。


「そうそう、今学期から本浦先生
 産休なんだよな。

 バレー部の奴らが悲しんでた。

 社会って代わりの先生って、
 もう来てるの?」


ふいうちを食らった質問に、
何も言えずに無言で頷く。


「何々?男?女?

 俺としては、女の先生がいいよなー。
 スカート丈も短くてさ。

 まっ、唯ちゃんみたいな
 天然キャラもいいけどな」



天然キャラって……。


天然、天然って
言わないで欲しいんだけど。



言わなきゃ。
生徒からの質問なんだから。