『緋崎先生、今度一緒に
 映画行きませんか?』

『緋崎先生、東フィルのコンサートチケットが
 とれたんですよ。
 ご一緒に』

『帝国バレエのチケットが……』



今日も、唯ちゃんの周囲には
アプローチ講師陣の群れ。



イライラしながら
見つめる俺の肩を叩くやつ。



視線を向けると、
そこには音弥が姿を見せる。



「おはよ、雪貴。
 険しい顔してんじゃん。

 おぉ、古文の大谷懲りずに
 また唯ちゃんにアプローチしてんじゃん」


そう言って目の前の光景を覗きながら
楽しそうに吐き出す。


「音弥、嬉しそうに言うんじゃねぇって。
 唯ちゃんに、悪い虫ついたらどうすんだよ」

心配そうに、
じっと視線の先を見つめる俺。


「まっ、見とけって。
 大丈夫だから。

 唯ちゃん、マジ天然すぎて
 笑えるから」


そう言う音弥は、
俺の隣で目の前の光景を見届けながら
クスクスと声を殺して笑ってる。

超鈍感な唯ちゃんは、
そんな相手の気持ちに気づくこともなく
天然に罪作りの笑顔を振りまいてる。


会話こそ聞き取れないけど、
唯ちゃんが去った後、
がっくりと肩を落とす講師陣は
何とも言えない。