「こんにちは」

「お邪魔します。
 百花、どうですか?」




荷物を部屋の片隅に置いて、
百花さんの眠るベッドサイドへと
すぐに向かう唯ちゃん。



唯ちゃんの日課は、
眠り続ける百花さんに、
他愛のない日常会話を繰り広げる。


そこで会話してるみたいに。


そんな唯ちゃんの声を耳にしながら、
俺は託実さんに断りを入れて
託実さんが座る隣に腰掛ける。




真っ白な譜面に、
描かれたおたまじゃくし。




「託実さん、これっ」

「あぁ」




辿った音符は脳内で音となり、
懐かしいメロディーを奏で始める。



ベースを片手に弦を爪弾く
託実さんの隣、
俺も荷物を置いて、部屋に置かれた
託実さんのギターを手に取る。



「託実さん、そこ……。

 なら、こっちのフレーズは
 どうですか?」



託実さんのベースの音色に
音を被せるように
自らの音を紡ぎ出していく。


兄貴が旅立って以来、
音を発することなどなかった
ギターの音。

なのに今は……
こんなにも穏やかに爪弾ける。



そんな俺達のやりとりを受けて、
唯ちゃんが、俺を覗いた。