兄貴が死んで、
唯ちゃんと離れて
どれくらいの時間が
過ぎたのかすらも
実感がない。







唯ちゃんが俺に
笑いかけてくれた時間は
今でも昨日のように鮮明なのに、
今、どう伸ばしてもその腕は、
何処にもない。





その事実だけが、
今以上に俺を孤独にさせて
俺から感覚を麻痺させていく。





あれほどまでに、
弾きこなしていた音楽は
何時しか音も色も失った。






音を心として
捕えることすら出来なくなった
俺に、これ以上の逃げ場所なんて
何処にもない。




だけど覚醒するたびに、
落ち着く体を
持て余すだけ持て余してる。





そうやって今日も、
持て余した体を受け止めることが
出来なくて、無意識に
病院を抜け出していた。




雪がチラチラと舞い落ちる
冬の街をただ一つの場所を
目指して歩いていく。




その場所は山深く
雪深く……とても寒い。


ひんやりとした空気。


突き刺すような風が
印象的に残る渓谷。


死神の囁きが
聞こえる場所。