「母さん。
ごめん。
俺体力持ちそうにないから。
悠久先生の世話になる。
後で、そっちにいくよ」
悠久先生に支えられたまま、
そう告げると、
心配そうな顔を残したまま
母さんは兄貴の待つ車へと
乗りこんだ。
病院スタッフが静かに
一礼をして見送る。
兄貴の乗る車が
ゆっくりと姿が
見えなくなっていく。
途端に
視界が真っ暗になって
俺の記憶は途切れた。
次に目覚めた時は、
俺自身が
病室のベッドに眠らされていて、
腕には点滴が繋がっている。
携帯電話を手に取って、
情報を眺める。
液晶に映る情報は、
翌日の朝を告げていた。
そのまま携帯を操作して、
ワンセグを映す。
携帯電話のモニターには、
ちょうど、Ansyalの
記者会見の模様が映し出される。
良く知ったメンバーたちは、
全員が心も体も困憊しきった様子で
会見に応じていた。
『Takaさんが
入院したのは何時の事ですか?』
記者の質問に対して、
この夏のツアーの後だと答えた
託実さんに、
他の記者からの
鋭い言葉が容赦なく突き刺さる。
『違いますよね。
真実を話してください。
Takaは、
二人いるんですよね。
今回、亡くなったのは
作曲担当のTakaですか?
演奏担当のTakaですか?』
想像を絶する記者会見の様子に
俺は我慢できなくなる。



