「唯ちゃん、
 この弁当めっちゃ美味いんだけど」



昼休み。


彼、学級委員長の宮向井雪貴くんは
私の入り浸る、音楽準備室の机に
広げられたお弁当を頬張りながら
にこやかな笑みを浮かべる。



彼がコンクールで
受賞したあの日から、
私と彼の距離は縮まり、
一緒に過ごす時間が多くなった。




彼は生徒。
私は教師。




学校に見つかったら、
処分も有り得るわけで
時折、心苦しくなる時もあるけど
彼の傍にいる時だけが
何故か本当の私に戻れる気がして。




あの夏休みの入院以来、
失ってしまった
私自身の記憶。



その記憶の中にいる
私の知らない本当の私に
彼の傍にいる時間だけが
立ち戻れるような
そんな錯覚すら感じるほどに。