知り合いがいたから何だ。と思えるような環境ではなかった。予備校では、友達以外は皆、授業が一緒で顔だけ知っている“知り合い”で、何かにつけ陰口を言う人も多かった。

だから、変に噂になるような事をしたら、私は大学に行っているから良いとして、あの人に迷惑がかかる。

それは絶対に避けたい。

けれど、この機会を逃したくはない。


「ねぇ。やっぱり下にいようよ。」

「何で?」

「出入り口の方がさ、人少ないし…」


私達が階段に向かって歩き出した時、教室の戸が開いた。

そして、


「―――あ…」


会いたかったあの人が、階段へと歩み寄って来たのだ。