甘い蜜




ーーーあ。

まだ、しがみついたままだった。


「…ごめん」


あたしは慌てて翔琉の腕を離した。


でも代わりに翔琉の服の裾を、こっそり掴んだ。


「翔琉…置いていかないでね?」


恥ずかしくて目を見て言えない。


何も言わない翔琉に、あたしは一瞬不安になった。

でもそれは、一瞬のこと。


裾を掴むあたしの右手を翔琉が掴み、そのまま手を繋いでくれた。


さっき繋いだときより、強く。


その瞬間、あたしの中に広がる安心感。


ーーー翔琉がいるから、大丈夫。

手を繋いだだけで安心するなんて、あたしは単純なのかもしれない。



遠くで大きな笑い声が聞こえた。

絶対凛と智哉だ。

お化け屋敷には似合わない笑い声に、あたしはつい笑ってしまう。


「あいつら、場違いだな」


そう言って翔琉も笑う。

見上げると、暗闇の中に翔琉の笑顔が見えた。


あたしの中に生まれた小さな余裕。

お化け屋敷の中でも、翔琉の顔をちゃんと見れた。


「行こっか」


翔琉の一言で、繋がれた手はあたしを先へと連れていく。


でも進むたびに余裕なんて消え去っていった。


しっかり繋がれた手だけが頼りだった。