甘い蜜



ちょっと冷めたお好み焼き。

冷ましてしまったのは、あたしが迷子になったから。


ーーー翔琉、ごめんね。


チラッと横を見ると、翔琉もこっちを見ていた。

でもその顔は、どこか悪戯に笑っているように見える。


「お化け屋敷、行く?」


翔琉の発言に、あたしの箸を持つ手が止まる。


ーーーお化け屋敷!?


「絶対やだ」

もちろん、即答。


そこに、凛と智哉が口を挟んだ。


「それさっき、俺らも話してた」

「行こうよ、みーちゃん」


お化け屋敷に入るには、ふさわしくない二人の笑顔。

でも、あたしは絶対に嫌だ。


「…あたし、ここで待ってる」

小さく呟いて、せめてもの反抗。


でも勝てるはずがなかった。

凛と智哉の猛烈な押しに。

結局あたしは渋々折れてしまった。


自然と漏れるため息。

お化け屋敷なんて、なくなってしまえ。



食べ終わってから、煙草を吸った。

なるべくゆっくり。

無駄だとわかっていながらも、少しでも時間を稼ぐため。


ーーー心の準備なんて、何時間あっても足りないけど。


でも、

「4人で入れば大丈夫だって」

翔琉の笑顔に、大丈夫かも、なんて思ってしまった。