甘い蜜




「俺達、これ飲んだら帰るよ」

ドンペリを片手に、拓郎が呟く。


ありがとう、と言いたいところだけど、

「え、帰っちゃうの?」

と淋しがった。


あたしが何を言おうと、大人しく帰ってほしかった。


でも、拓郎は勘違いした。


「店だと忙しそうだから、終わったら飯でも行こうよ」


笑顔が戻った拓郎。

あたしは必死に笑顔を保つ。


「そうだねー」


そう言ってあたしは考えるふりをしながら、間をあけた。


「でも今日は忙しくて、仕事長引きそうなの。
これ以上待たせちゃったら悪いし」


精一杯の申し訳なさを顔に出して、拓郎に謝った。



凛に言われた事が、あたしの頭の中で何度も再現される。

絶対アフター断って、と言った凛。


ーーー翔琉がもしかしたら…。


あたしは完全に期待していた。

凛の言葉を信じて。



だから、あたしは何が何でも拓郎のアフターは断った。



ーーー期待が外れませんように。

そっと心の中で願った。