甘い蜜




あっという間に目的地のビルに着き、あたしはBARへ向かった。


重い黒いドアを開けると、


「瑞希おつかれー!」


駆け寄ってくる蓮の顔は笑顔。

「おつかれ」と言ったあたしの顔は作り笑い。



あたしはカウンターのいつもの席に、腰を下ろした。


「金はいらないから」

そう言った蓮の手には、シャンパンが1本。


やっぱり今日は特別な日らしい。

でも、あたしも蓮も誕生日ではない。


よくわからないまま、グラスに注がれるシャンパンをただ眺めていた。



「じゃあ…」



片手にグラスを持つ蓮を見て、あたしもグラスを手に取る。


「俺らの半年記念に、乾杯!」


コツンと、あたしのグラスに乾杯する蓮。


あたしは蓮の言葉に驚き、少し遅れてグラスを口に運んだ。


ーーー半年記念?もう半年?


そして記念日を忘れていた自分に気づき、あたしは蓮に対して気持ちがないんだと、改めて気付いた。