甘い蜜



「瑞希、さっきごめんな。
今日くらい会いにきてほしいんだ」


さっきと全く違う態度。

そして蓮の言った言葉を、あたしはよく理解できなかった。


ーーー今日って、何かの日だっけ?

全く思い出せない。



でも何の日でも構わない。

直接会って、別れを告げる。



あたしは「これから向かう」と返事をして電話を切った。



あたしがこれから話すことに、蓮はきっと怒るだろう。

でも、蓮との別れは時間の問題だった。


ーーー何事もなく帰れればいいけど。


あたしはため息をつきながら、ドレスから私服に着替えた。

荷物をまとめると、すぐに店を後にした。



「寒っ」



もう春だというのに、深夜はまだ肌寒い。

トレンチコートの襟をぎゅっと掴んだ。


寒さから逃げるように、タクシーを拾って乗り込んだ。


行き先は、蓮が働くBAR。


すぐ近くだけど、寒くて歩く気にはなれない。


ーーー早く帰れますように。

そっと心の中で願った。