甘い蜜




「今日はありがとう」

「智哉、あとでね」


店の外で智也と翔琉を見送った時、智哉は振り返り手を振った。


「おう。あとでな」


凛もにっこり笑って手を振りかえす。


でも翔琉は、あたしを見る事はなかった。


そして一度も振り返らないまま、行ってしまった。



淋しかった。それが正直な感想。



一度も話したことがないのに、指名してくれた翔琉。



でもその態度は冷たかった。



あたしを指名して失敗した、と思っているのかもしれない。


そうだとしたら、この先あたしは翔琉に指名される事はないだろう。


番号交換も拒否られたし。


それに気づいた瞬間、自然とため息が漏れていた。


少し仲良くなれたと思ったのは、あたしだけだったのかも。


そう思うと、素直に淋しい。




もう会うことも無いかもしれない翔琉の後姿を、あたしはただ眺めていた。