『おまえは刈人』


頭の中で、誰かが囁く。


「ユキにいさま…ッッ」


目の前で、彼女が泣いている。


『アヤカシの命を刈り取る人間』


彼女を庇った男が砂になって、名前も知らない俺の惚れた女が涙を自分で拭った。


『鬼を筆頭とするアヤカシを滅するのだ』


「…良い眠りを……ユキヒメ様」


――十年


彼女への、この想いはどうしよう。


『九尾の狐や猫又、犬神』


ユラリ、と彼女が立ち上がった。


『朧車、唐傘小僧、鳴釜、硯の魂』


ピリピリと彼女から殺気が渦巻く。


『アヤカシの名をあげればキリがないが、それよりも鬼』


「粋がるな!」


彼女が吠えた。


その刹那。


小さな彼女の背中から、ブワッと怒りの焔が噴き上がった。


猩々緋を思わせる赤色の目と、あの時の闇を思わせる黒の焔。


『鬼を滅するのだ』


そして、彼女の額には二本の赤黒い角。


『全ての元凶を絶つのだ』


涙が、頬を伝った。