地面を蹴る。


彼女も地面を蹴った。


だけど、捉えることができないほどの速さ。


「がっ」


仲間の短い声と、ドサッと倒れる音が何度も聞こえる。


俺の目に映るのは、人が怒らせた鬼神。


捉えるのは彼女の残像。


ふと、彼女が俺の視界におさまった。


そして、彼女が右手を上げる。


「!」


ドクンと、あの時みたいに心臓が大きく脈を打った。


――なに…?


身を内側から焼かれるような。


「ぐぁッ」


身から噴き出した黒い焔は俺を包む。


熱さなんて感じない。


異臭が俺の鼻をかすめた。


「…ぅ……あ」


俺の目に映る彼女がぼやける。


――……俺は、死ぬのか…?


彼女を逃げないように掴もうと、手を伸ばした俺の右手が。


ドロドロと、融けていく。


ザッと、彼女が風のように俺の横を走り抜けた。


風が、ドサッと俺を押し倒す。


空を見ても、青空は見えなかった。


あるのは、あの時の闇。


暗闇で出会ったのは、彼女だった。







――俺は、綺麗な鬼に恋をした







END