手を繋いでいて

「……秋都の馬鹿っ…」
私は走りながら言った。心臓が絞められる様に苦しい。
(……私はどうすればいいの?)
宛もなく走り続けてそう思った。
アパートを出た所で私の居場所はない。
麻希の家という選択肢はあるが、ここから4kmくらいかかる。
自分の体力に自信が無いため麻希の所には行けない。
息が苦しくなり、私は走るのを止め、一旦近くのコンビニに入る。
今日の夕飯を買ったコンビニだ。
迷った末に水を買い、コンビニの外に出る。
そこには秋都が居た。
「…恵美」
「……どうして秋都が此処に…?」
あまりにも早く見つかってしまったので、私は唖然とする。
「だいたい恵美はそんなに遠くに行けないだろ?で、行く所といったら此処のコンビニしかないわけだ」
秋都は私の持っているビニール袋をまじまじ見て一言
「……陸上選手にでもなりたいの?恵美」


「い、いつまで笑ってんのよ!!」
「だってさ、死ぬ死ぬ言ってた人がマラソンなんてしてるんだよ!!水を愛用してさ!!」
「水を買っただけじゃない!別にマラソンしてた訳でもないじゃない…!」
秋都はさっきからずっと笑っている。
私は怒りつつも内心、秋都が来てくれて嬉しかった。
「でも恵美が無事で何よりだ」
「あ、ありがと……」
気が付くと私達はアパート方面に戻っていた。
(さっきの喧嘩、秋都に謝らなきゃな……)
「あ、秋都……」
「ん?何?」
「さっきは……ごめんなさい」
私は恥ずかしいのと悲しいのを我慢して、そう言った。
秋都は少し驚いた様な顔をしたが、直ぐに笑みを浮かべて
「ううん…こっちも強く言い過ぎたのかもしれない、ごめん」
と言い私の頭を撫でた。
秋都からの優しさが私にとって何だか苦しい。
「……恵美、約束してほしい事がある」
秋都は唐突にそう言った。
私は不思議に思ったが、聞くことにする。
「……もう二度と「死ぬ」なんて言わないでくれ」
そう言う秋都は真剣な顔をしている。
「…うん」
私はうつ向き、力無く返事を返した。
死ぬとわかっているのに「死ぬ」と言ってはいけない。それは私にとって凄く難しいことだった。
「…それからあと一つ」
「?」
私はうつ向きがちな顔を上げ、秋都を見た。
いつの間にか顔が笑顔に戻っている。
「…この先、何があろうと、ずっと一緒だからね」
そして私の手を握った。
私も反射的に握り返した。
「……うん!!」
そう、私達はずっと一緒。
だから何も心配しなくて良いと、改めて秋都が気付かせてくれた。
だから私は生きるんだ。秋都の為に、信じてくれている皆の為に。

病気になんて、絶対に負けないから。