「……私の病気が悪化してる?」
「そう、担当医が確かにそう言っていた」
秋都から私の病気の事実を聞いて私は絶望したが、戸惑う事など無かった。
なぜなら自分の病気が治らないことぐらい知っているから。私は治療に希望を持たないだけだ。
「……そうなんだ。でも治らないならどうしようもないよね」
苦笑いして自分の思ったことを口に出す。
私に心臓を提供してくれる人が居るなら別の話だが、なかなかピッタリな人が現れないのだ。
ましては臓器提供を待っている人は世の中にごまんと居る。
誰かの心臓が私にまわってくるのにはたいそう時間が掛かりそうだ。
「恵美、恵美は医者から入院を進められた。俺は恵美を思って入院を勧める」
「嫌。私入院なんかしない。せっかく憧れの大学に入学したのよ?無意味な入院なんて時間の無駄になるだけじゃない」
私はそっぽを向き、テレビのチャンネルを変えた。
「恵美。俺は真剣に言っている。これ以上お前の病気を悪化させたくないんだ。たとえ治す事は出来なくても悪化するより全然良いだろ?」
秋都は私からテレビのリモコンを取り上げた。
静まりかえった部屋で私と秋都は黙りこむ。
(秋都も本当は思ってるんだ。私に大学を優先させたいって……)
私は秋都の目を真剣に見詰めて宣言した。
「……秋都が何を言おうと私は入院しないから」
しかし秋都は諦めずに私に言い聞かせる。
「何を言ってるんだよ、お前今自殺しようとしてるんだよ!わからないのか?大学行くことは確かに大事だけど自分の命の方が何倍も大事だろ?」
「だーかーらー!行かないって言ったら行かないの!」
私は涙が溢れた。
「…私、死ぬんだよ、結局。入院先の病院で」
これは信じがたい事実だ。
大学に行こうが入院しようが同じ。
私の抱えている病気は大きい。一般の人より寿命が少ない事ぐらい分かっている。
だからこそ今を楽しみたいのだ。
「馬鹿なこと言うな!いいか?お前は死なない。俺がこう言ったからには死なないんだ。」
「そんなに都合よくいくと思ってんの!?馬鹿なのは秋都よ!最後くらい自由にさせて!!」
私はそう怒鳴るとアパートを飛び出した。
「おいっ!恵美何処行くんだよ!走るな!体に負担がかかる!」
遠くで聞こえる秋都の声を無視して、私は夜の街を走る。
頭の中は真っ白で息が苦しかった。
