手を繋いでいて



秋都が帰ってきたのは麻季が帰ってすぐ後だった。
「秋都、おかえり!」
私は元気良く出迎えたが、秋都はなんだか元気が無さそうだった。
「……ああ、恵美。ただいま」
その顔には笑みを浮かべているが、声のトーンは低いままだった。
「秋都、どうしたの?」
私はソファーに座り、彼に尋ねる。
「え?なんでもないよ。ごめん、今日連絡出来なくて」
「そうなの?私心配だったのよ、秋都が事件とか事故に巻き込まれてないかとか…」
それを聞いた秋都は、私の頭を撫でる。
「ありがとう、恵美。でも自分の心配の方が先だよ。あんまり無理して体壊さないように気をつけてね…」
この時、なぜ秋都が暗かったのか私は分からない。
しかし麻季に言われたことを思い出して気にしないことにした。
「そうだ秋都、夕飯食べてきたの?」
「え、まだだけど」
「じゃあ作るよ、何がいい?」
私は張り切ってエプロンを着る。
しかし秋都は何か言いたそうにこちらを見詰めていた。
「ん?秋都、どうしたの?」
「…いや、何でもない」
「そっか、じゃあ何が食べたい?」
私は冷蔵庫の中を見ながら尋ねた。
「……恵美の手料理」
秋都の発したその言葉に私は笑って答える。
「やーねぇ、私が作るんだから私の手料理に決まってるでしょ!」
「でも恵美、今日コンビニ弁当だったんでしょ?」
秋都はテーブルの上にある弁当のからを見て言う。
しまった、と内心思い私は急いで弁当のトレーを片付け、何事も無かった様に秋都に聞いた。
「何が食べたい?秋都の為なら何でも作れるよ!」
秋都はそう言った私の顔をまじまじ見詰め、突然笑い出した。
「な、なによ!何がおかしいの!」
「……全部、恵美の全部が!」
「全部~?」
私は困った顔をするが、内心では秋都が元気に笑ってくれたのが嬉しかった。

「いただきまーす」
「召し上がれ!上出来だよ!」
結局作ったのは野菜炒め、卵焼き。
手料理の定番でもあり、簡単でもあることから私が勝手に作った。
「味はどう?」
「最高だよ。やっぱり恵美の手料理が一番だな」
秋都はそう頷いた。
私は少し照れ、明日は何が食べたいか、明後日は何が食べたいか等を秋都に聞いた。
流石に一週間後まで決めるのは大変なのでこの話は無かったことにしたが、私の中ではもうこのメニューで決定してある。
不意に秋都が呟いた。
「…あと何回……恵美の手料理が食べられるんだろう…」
「え?」
秋都は宙を見詰めて確かにそう言った。
「秋都ってば、何いってるの。私が死ぬまで食べられるに決まってるじゃない!」
自信満々で言ったつもりだが、秋都の返事は予想と違った。
「……恵美…っ」
いきなり私を抱き寄せて秋都が囁いた。
「秋都どうしたの___」
「絶対!死ぬんじゃねぇよ……!俺を置いていくなよ……!」
私を抱き締める秋都の腕は次第に強くなっていく。
「私は死なないから大丈夫!まだ全然そんな年じゃないじゃない!」
私は笑って言ったが
「……恵美…」
そう言った秋都の声は震えている。
私は流石に心配になり、秋都に尋ねた。
「秋都………何かあったの?」

彼の答えた事実に私が絶望したのはその時だった。