【兄side】

前回の検査結果で心機能の数値が悪くなっていたため、先週から新しい薬を使い始めたんだが、これが副作用の強いもので、妃菜を苦しめることとなった。

何時間も吐き気に襲われながらも耐えてくれていたのだが、薬を嫌がる妃菜に、ついつい厳しい言葉を言ってしまい、妃菜は泣いて布団から出てこない。

「ひーな!そんなとこで泣いてたら苦しいから、出ておいで」

「もう、お兄ちゃんなんて嫌いーー」

「どうして?お兄ちゃん叱った訳じゃないんだよ。ほら、布団から出ようね」

そう言って布団をめくって、妃菜の体を起こして、抱きしめたら…

「やーだ、はなして!お兄ちゃん、妃菜のこと何にも分かってないくせに…(泣)」

腕の中で暴れる妃菜を、もっと強く抱きしめ続けた。

「妃菜が毎日頑張ってるの、ちゃんと分かってるよ」

「ちがう!」

「何が違うの?妃菜はお兄ちゃんに何を分かってほしいの?」

「もうあのお薬頑張れない!これ以上頑張れないのに…。お兄ちゃんは副作用の辛さも、妃菜のことも何も分かってないから、簡単にあんなこと言えるんだよ」

これが妃菜の本音な気がして、正直つらい。

「簡単に言ったつもりはないけど、妃菜を傷つけたんならごめんな…あの薬の副作用がキツいのも、妃菜が十分に頑張って耐えてくれてることも分かってる。でも、今の妃菜の心臓の状態では、あの薬を使うしかないんだよ。他に楽な治療法があればいいんだけど、ごめんな…」

「お兄ちゃん、泣いてるの?妃菜が酷いこと言ったから?」

妃菜にこう言われて、自分が泣いてたことに初めて気付いた。

「えっ?ごめん、ごめん。妃菜のせいじゃないよ。もっと楽な方法が思いつかない自分が情けなくてね…。ごめんね、こんなお兄ちゃんで。妃菜につらいことばっかりして…」

「泣かないで、お兄ちゃん…お兄ちゃんは悪くない…お医者さんなんだから仕方ないんでしょ?妃菜が頑張らないから…」

「ありがとう。妃菜が悪いんじゃない。妃菜は十分頑張ってるだろ?副作用辛すぎるからな…。何か別の方法考えるから、妃菜はちょっと休もう」

とりあえず、妃菜を寝かせた。