【兄side】

あの日から、妃菜は精神が不安定となり、過呼吸が頻繁に起こるようになった。

「ハー、ハー、ハー、ハー、ハー、ハー、ハー」

また過呼吸を起こした妃菜の口に袋を当て、呼吸を促す。

「ここにスーハーしようね。すーぐ楽になるよ、大丈夫、大丈夫」


また、不安定になってからは、1人になるのを異様に嫌がり、常に俺の手や服などを掴んでいたり、姿が見えなくなるとパニックを起こしてしまうようになった。

俺がトイレに行くために、部屋を出ようとしても、

「いやー、やー、やー」と泣く。

「トイレ行くだけだから、すーぐ帰ってくるよ。本当にすぐだから、いい子で待ってられるよね?」

「いやー、やー、行っちゃやだ、1人怖いー」

結局、妃菜を連れてトイレまで行くことになった。

仕事の時は、どうしても一緒にいてやれないが、一緒にいないとパニック発作を起こすので、診療日の午前中は薬で眠らせてやるようにしている。

そして、妃菜の不安を少しでも取り除けるそうに、常に声を掛け続けている。

「大丈夫だよ、お兄ちゃんはどこにも行かない。ずっと妃菜のそばにいるからね。妃菜は1人じゃないよ。お兄ちゃんの大事な大事な妹なんだよ。良い子だもんねー、きっと病気も治るよ」

そう声を掛けながら、抱きしめてやったり、頭を撫でてやると、少し安心した表情になり、微笑むようになってきた。


この精神の不安定は数ヶ月続いたが、今はようやく元気な妃菜に戻ってくれた。