お兄ちゃんは妹の主治医

【兄side】

妃菜はきっと自分が悪いことをしたって分かってるけど、意地になってるな。

「じゃあ、もう1度吸入するからね」

そう言って、有無を言わさず妃菜の口に吸入器を当て、頭を手で固定し、妃菜に呼吸を促した。

「頑張ってスー、ハー、してみようね」

そう言っても、全然口で呼吸しようとしない妃菜の鼻をつまむことにした。

突然、鼻をつままれた妃菜は、ビックリした顔をしていたが、

「妃菜!鼻じゃなくてお口で息しようね」

それでも口で呼吸をしようとしなかった妃菜だが、さすがに苦しくなったのか、ようやく口で呼吸をしだした。

それから、吸入器のタイマーをスタートさせた。

「そうそう、上手だよ。息しなかったら苦しいからね、お口でスー、ハー、しようね」

実際、口で呼吸し、薬を大量に吸い込むことで、結局苦しさはあるのだけれど…

そうするとすぐに、妃菜が咳き込みだした。

「妃菜、大丈夫だよ。スー、ハー、スー、ハーだよ」

こんな状態の妃菜だけど、まだ口呼吸を促すように言葉をかける。

すると、妃菜が苦しさから逃れるために吸入器から顔を離そうと必死になっていた。

やはり、鼻呼吸を阻止し、口呼吸だけにしている分、いつもよりも薬がよく吸い込まれるため、いつも以上に苦しそうだな。

「妃菜、逃げないよ、苦しいね。苦しいけど、頑張ってスー、ハーしよう」

苦しくてもがいている妃菜を固定も兼ね、抱いた状態で、声をかけ続けるが、この状況にはいつも胸が締め付けられる思いだ。

苦しんでいる妃菜を見て、何度、途中でやめさせてやろうと思ったか…

しかし、それでは妃菜のためにならないので、心を鬼にして毎回行っています。

この吸入の治療は妃菜も大嫌いだが、俺もできればやりたくないと思っている。

だが、この吸引は昼と夜の2回もしなければならない。