すると水無月さんは、髪の毛を揺らしながら、こちらを向いた。
大きな目が、更に大きくなっていて、その中に諦め顔の俺が映っていた。
「ホント!?」
「だってもう準備してるんですよね?」
「うん!」
「じゃあ俺が何言ってもしょうがないので、どうぞお好きに飼えばいいと思います」
「小野くんなんかすごく投げやりだ…」
「これから俺の仕事が増えるのかと思ったら投げやりにもなります」
「わあ、小野くん、目が死んでる」
誰のせいだと思ってるんですか、誰のせいだと。
そんな俺の心境を読んだわけないと思うけど、水無月さんはキリッとした表情で拳を作ってみせた。
「大丈夫、小野くん。私もがんばって金魚さん育てるから!」
いやもう“私も”ってところですでに俺カウントされてますしね?
一緒に飼うみたいなことになってますしね?
聞き逃すとでも思ったんですか水無月さん?
しょうがないので聞き逃しますよ、今日だけです。
なんて、
「わあ~小野くん、見て見て!」
数分後、悪戦苦闘した後、金魚を一匹捕まえて、透明の袋を見つめながら水無月さんが、
「小野くんと夏祭りの思い出だね~」
とかなんとか言いつつ、嬉しそうに笑って、はぐれないようにと繋いだ手を、楽しそうに振ってたから。