再びペダルを回して道のりを行く。
少し休んだからか、踏むペダルが軽いような気がする。
水無月さんも、「うーみー!」と更に元気になっている。底抜けか、この人は。
「小野くん小野くん!なんか海の匂いしない⁉︎」
相変わらず、すぐそばで響く水無月さんの声。
「そうですか?」
「するよー!もうすぐだよ!」
言われて、漕ぐ力を緩めて鼻をくんくんさせてみる。
…あ、言われてみれば。
「わー!小野くん、前、前!」
「……。え」
後ろから、水無月さんにバシバシと肩を叩かれる。
慌てて我に帰ると、目の前には。
「下り坂だー‼︎」
荷台の水無月さんが、それはもう一層楽しい、とでも言いたげな声で、叫んだ。
対して自転車を漕いでいる俺は、もはや生きた心地がしないわけで。
「下り坂ー⁉︎」
水無月さんとは正反対の声色で、大声を上げる。
それでも急には止まれない。
なんとかブレーキをかけつつ、道に素直な自転車が、下り坂に突入して止まれなくなるのを防いだ。