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穏やかな風景が、後ろにサァッと流れていく。
広いとは到底言えないような道を、自転車で走る。
蝉の鳴き声が近づいては遠ざかり、タイヤが地面を走る乾いた音と混ざり合う。
水無月さんの教えてくれた海までの道のりは、街を離れた、どこか懐かしい雰囲気の漂う町並みだった。
「わ〜すごいとこ通るんだねー!」
「そうですね」
「あ、小野くん見て見て!にゃんこ!」
「いや俺見れませんから!漕いでますから!」
「がんばればいけるよ!小野くん!」
「適当言わないでくださいよ!!」
俺の後ろに座る水無月さんは、いつにも増して楽しそうで、怒る俺に「あはは〜」と笑う。
2人乗りなんて、いつ振りだっけ。
水無月さんを後ろに乗せて走れるかな、なんてちょっと不安だったけど、案外走れるものだ。
「あ、小野くん、次は右だよー!」
「りょーかいです」
後ろで水無月さんのナビが言う。
暑さなんて関係ない、とでも言うように、水無月さんはしっかりと俺のウエストに手を回していて、漕いでいても声がよく聞こえる。
背中、暑いなあ。
なんて思っているくせに、まあいいか、とも思う自分がいるのだ。


