となりの水無月さん。






+++++




穏やかな風景が、後ろにサァッと流れていく。

広いとは到底言えないような道を、自転車で走る。

蝉の鳴き声が近づいては遠ざかり、タイヤが地面を走る乾いた音と混ざり合う。


水無月さんの教えてくれた海までの道のりは、街を離れた、どこか懐かしい雰囲気の漂う町並みだった。


「わ〜すごいとこ通るんだねー!」

「そうですね」

「あ、小野くん見て見て!にゃんこ!」

「いや俺見れませんから!漕いでますから!」

「がんばればいけるよ!小野くん!」

「適当言わないでくださいよ!!」


俺の後ろに座る水無月さんは、いつにも増して楽しそうで、怒る俺に「あはは〜」と笑う。


2人乗りなんて、いつ振りだっけ。

水無月さんを後ろに乗せて走れるかな、なんてちょっと不安だったけど、案外走れるものだ。


「あ、小野くん、次は右だよー!」

「りょーかいです」


後ろで水無月さんのナビが言う。

暑さなんて関係ない、とでも言うように、水無月さんはしっかりと俺のウエストに手を回していて、漕いでいても声がよく聞こえる。


背中、暑いなあ。


なんて思っているくせに、まあいいか、とも思う自分がいるのだ。