勝てないなあ、この人には。
と、何度思ったかも覚えてないくらいの、もはや当たり前のことを、思ったりした。
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『おやつは1000円までね!』とかどう考えてもおかしいだろ、ということを言い始める水無月さんを宥めすかし(結局500円分のお菓子をバッグに詰めてたけど)、いよいよ外に出る。
真夏の炎天下。
蝉の鳴き声が響き渡る中、なかなか使う機会のない自転車を引っ張り出してきてチェーンの様子なんかを見る。
まったく使ってなかったわけではないから、問題はなさそうだ。
そうやって自転車の点検をしている俺の横目に、そわそわと自転車を眺める水無月さんが映る。
キャミソールにカーディガンを羽織り、ショートパンツにスニーカーという、完全に遊ぶ格好だ。
「小野くんの自転車初めて見た~すご~い!普通だ~!」
「……。いや普通ならすごくないですよね?」
「なんかもっと、こう、本格的なのかと思ってた!高いヤツ!」
それだと二人乗りできませんから、水無月さん。しっかりしてください。


