「小野くん、海行こう!」
玄関の扉を開けた時の水無月さんの第一声は、それだった。
「……はい?」
対する俺の第一声は、これだった。
「だからね、海だよ海!行こう!」
「……いや、行こうって言われましても」
「小野くんもしかして海ダメなの?」
「いや、違いますけど、」
「泳げないの?トンカチ?」
「違いますけど!!」
「じゃあ行こう!」
じゃあ、ってなんですか。じゃあって。
俺は自分の家の玄関扉を支えたまま、寝起きの頭で脱力する。
いや、ね。
隣のドアが開いた瞬間から、嫌な予感はしてたんだ。
足音がバタバタとやってきて、俺の部屋の前で止まった時も寝たふりをしようと思ったんだ。
だけどインターホンを連続で押されては、二度寝も何もできやしないっていう。
それで渋々玄関を開けたら、これだ。
「ね!小野くん、行こう、海!」