「小ー野ーくん!」
なんていう弾んだ声で言いながら、水無月さんが目の前に持ち上げてきたDVDを見た瞬間、俺は迷わず回れ右をした。
間髪入れずに腕を掴まれ、逃亡を阻止されたけど。
加えて水無月さんは人の腕をしかと掴んだまま、
「なんで逃げるのさー!」
とか聞いてきた。
なんでって。
なんでってアナタ。
「逃げるに決まってるじゃないですか。」
「なんでー!」
「そのDVDのジャンルをよく確かめてみたらいいと思いますよ。」
「ジャンル?」
「そうです。」
「確かめるまでもないよ小野くん。ホラーだよ!」
「お邪魔しました。」
今度こそ帰ろうとしたら水無月さんから「そんなに帰りたいならいいよ!小野くんち行って見るから!」という恐ろしい宣言をされたので帰るに帰れなくなった。
ホラーを見ると知っていれば来なかったのに。
水無月さんは昨日、借りてきたDVDは面白いやつだよって言ってたから来たのに。
水無月さんにとってホラーは“面白いやつ”に入るのか。知らなかった。
知りたくもなかったけど。