別にこれと言って泣きたくなるような理由もないし、涙腺が緩んだわけでもないし、何より俺は泣き虫とかでもないし。
じゃあ、なんで泣きそうだなって思ったかと聞かれたら、俺もよく、わからない。
「…………」
水無月さんは、しばらく黙ったままだった。
もしかしたら眠ったりしているかもしれない、と思って振り向いてみたら、予想外に、目が合った。
途端に水無月さんは、にこーっと笑う。
「ふっふっふー。あたしの勝ちー!」
「…………。はい?」
「小野くんがこのまま振り向いてくれなかったらあたしの負け、振り向いてくれたら勝ちって決めてたのでーす」
なんだろう。この謎の敗北感。
「……意味わかんないんですけども」
「小野くんがわかんなくてもいいのさー」
だって水無月さんルールだものー。
とか言いながら、水無月さんはごろごろとベッドの上を転がった。
楽しそうで何よりです。
俺のセンチメンタル返してください。
「おなかすいたな~」
内心で涙目を浮かべる俺なんか関係なしに、水無月さんの腹の虫がぐうと鳴いた。
気がつけば12時を半分も廻っていた。