「小野くんいつから夏休みなの?」
7月になると、必ずと言っていいほど、水無月さんはそう聞いてくる。
そろそろ日付を覚えてもらえてもいい頃なんじゃないかと思う。
だってもう3年目だし。
なんて思いながらも、気づけば答えてしまう。
「……もう夏休みですけど」
答えた瞬間、水無月さんはピタリと全動作をやめた。
お酒の缶を傾ける手も、完全に止まっていた。
昼間から飲まない方がいいんじゃないかなーと思ったりする。
「……え?」水無月さんは、唖然としたような声で言った。「今夏休みなの……?」
「はい」俺は洗濯物を畳みながら、肯定した。「そうですけど」
途端に水無月さんのパンチが飛んできた。
右のこめかみにヒットした。
ベッドに寝転びながらの右ストレート。ちなみに掛け声は「とうっ」だった。
「小野くんだけもう夏休みなんてズルイ!」
「またそれっすか……」
「だってあたしお盆休みくらいしかないんだもん!」
「だから、俺に言われても困りますって……」
「学生なんて滅びろー!早く社会のネジとなれー!」
ある意味グサグサと刺さる、呪いの言葉で喚く水無月さん。
切実にやめてほしい。