水無月さんは、ドアを押さえていた俺を押しのけながら、人の部屋に上がり込む。
履いていたヒールは、水無月さんが足をブンブン振って脱いだために、散らばる結果になっている。
せめて隣同士に脱いでほしい。靴のためにも。俺のためにも。
ドアを閉めて、散らかったヒールを揃えていると、水無月さんが「あー!」と叫ぶ声が響いてきた。
だからお隣さんに迷惑なのでボリューム落として喋ってくださいねと何度言えば。
独り暮らし歴は俺より長いはずですが。水無月さん。学習能力どこのオークションに出しちゃったんですか。
「小野くん小野くん!」
「……はい」
呼ばれつつ部屋へと向かうと、水無月さんが冷蔵庫の前で絶望感を露わにしゃがみ込んでいるのを発見した。
しまった。
「小野くんキミ……」
「……はい」
「あたしのビール……飲んだね……?」
昨日俺が飲んだビールはいつから水無月さんのビールになっていたのか。
おかしい。あれは正真正銘、俺がお金を払って買ってきたビールのはずなのに。
そして今日買い足してくるのを忘れていた。
めんどくさいことになった。
「……小野くん」
水無月さんは冷蔵庫を開けたまま、中を見つめて俺を呼んだ。
すごい話ズレるけど冷蔵庫閉めて欲しい。今月の電気代がこわい。
そして水無月さんの目つきもこわい。