「ね!」水無月さんは指揮を止めて、こちらを見上げる。「知ってる?」
「知ってます」
「あれのさ、じゃのめってどういう意味なのかな?」
「え、知らないんですか」
「え、知ってるの?」
「むしろ知らない方がビックリなんですけど」
「嘘だー!あたし知らないよー!」
水無月さんは、素でショックだと言わんばかりの表情を浮かべた。
その表情のまま、「小野くんが知ってて、あたしが知らないこともあるんだね……」と落ち込む水無月さん。
俺のことをなんだと思っているんだろう。この人は。
「……傘」ため息混じりに答える。
「え?」水無月さんは再びこちらを見上げた。
「傘って意味です」
「え?傘なの?」
「漢字で書くと、“蛇の目”って書くんです」俺は空中に漢字を書きながら言う。「蛇の目傘って意味です。昔の傘のことですよ」
「へ~!」水無月さんは素直な感心の声を上げた。「なるほどー」
「覚えました?」
「うんうん、覚えた!」
「また聞いたりしないでくださいよ」
「わかってまーす」
得意げな顔で、間延びした返事をする水無月さん。
これは確実に忘れるな。この人。
と、顔を見ただけでわかるようになってしまった自分も、なんだかなあ。


