げんなり顔で傘の当たった場所を擦っている俺とは対照的に、水無月さんは上機嫌だ。
この傘の中の圧倒的格差。
最近、水無月さんに元気持ってかれてる気がするのは俺だけだろうか。
俺だけだろうなあ。
「小野くん作のーしょうが焼き~」だとかなんだとか。隣で自作の歌を歌い始める水無月さん。
アナタおいくつですか。5歳ですか。若干音痴なのはご愛嬌っすか。そうですか。
人の気も知らないでまったく。
「ねえねえ小野くん」
自作の歌を途中でやめて、水無月さんは何かを思い出したように、話しかけてきた。
ため息をついていた俺は、その名残のままの声色で「はい」と、返事をする。
「なんでしょうか」
「あの歌知ってる?」
「歌?」
「あれだよー、あれ!えーっとね……」
水無月さんはリズムを思い出そうとしているのか、右手の人差し指を振りながら、瞼を閉じる。
俺はその人差し指を見つめた。
「あっめあっめふーれふーふかーあさーんがー」水無月さんは人差し指で指揮を執りながら、歌う。「じゃっのめーでおーむかーえうーれしーいなー」
やっぱりちょっと音痴なのは、ご愛嬌だと思う。


