水無月さんが、俺を見上げて「あはは」と笑う。
なんで笑われたのか、わかんないんですけども。
信号が青に変わる。
水無月さんの横顔も、青色になった。
「おなか空いたなあ~」
自分のおなかをさすりながら、水無月さんは吐き出すようにそう言う。
横断歩道を渡りきったところで、水たまりより空腹に関心を持って行かれたらしい。
傘からはみ出なくなった。
「今日は何を食べようかなあ」
「食べて帰りますか?」
「ううん。家でまったり食べたい気分」
水無月さんがまったりしてない時なんて見たことないんですけど。俺。
「今日はー…」一拍置いて、水無月さんは宣言する。「しょうが焼き!」
「と、お味噌汁!」と一品追加して、水無月さんの意思は固まったようだった。
ものすごく笑顔だ。そんな笑顔でこちらを見上げる。
まあそうくると思ってましたけどね。
「嫌ですよ」
「えー!」
却下した途端、水無月さんの笑顔はしょんぼり顔へと変化した。


