『小野くん、今どこ…?』
……まあ、でも水無月さんの声色もわかりやすいほどにしょんぼりしているので、しょうがない。怒らないでおこう。
「バイト先です」
『バイトかあ……じゃあ終わったら迎えお願いします……』
ここで『バイト?じゃあやっぱりいいです』と言わないところが、水無月さんらしいというか、なんというか。
俺は少しだけ苦笑して、顔を上げる。
「りょーかいっす……あ、水無月さんはどこに居るんですか?」
『む?あたしはまだ会社だよ?』
「残業ですか」
『傘がなくて帰れないだけだもん。仕事は終わりましたもん』
「仕事してる水無月さんとか想像つかないですね」
『あたしも働いてる小野くん想像できないなあ』
常日頃から働いてる気がするんですけども。誰かさんのせいで。
『じゃあ、お迎えよろしくね~』
気づけばいつも通りの声色に戻っている水無月さんは、そう言って通話を一方的に切った。
あのしょんぼりは演技なんじゃないかとたまに思ってしまうけど、そうじゃないから困るのだ。
俺は通話終了音のするスマホを耳から離し、ロッカールームの天井を見上げる。
ホントはバイト、もう終わってるんだけど、どうしようかな。


