『小野くーん……』


と、いう水無月さんのしょぼんとした声に、通話終了ボタンを押したくなった。

ディスプレイに水無月さんの名前が表示された時から、嫌な予感はしてたのに。

出ないという選択肢を選べなかった自分が憎い。


「……はい」数秒、間を置いてから返事をする。「なんでしょうか」


聞くまでもなく予想は出来ている。今日は雨だ。

それでも一抹の希望を抱いて、あえて尋ねてみたりする。

しかしそれは、


『迎えに来てほしいです……』


という、しょんぼりした水無月さんの言葉に打ち砕かれた。

そっと頭を抱える。試合に負けた選手みたいな面構えになる。

俺はバイト先のロッカールームで一体何をしているのか。


「……傘、」俺はその体勢から微動だにせず、問いかける。「忘れたんですね……」

『うん……そうみたい……』


そうみたい、じゃないっすよマジでホントにこの人はもう……。

昨日何度も「明日雨ですからね!絶対雨降りますからね!」と呪文のように繰り返していた俺の身にもなって欲しいです。水無月さん。聞いてませんでしたね。