「……じゃあ、今日だけですからね」
しょうがなく、という風に答えると、水無月さんは「やったー!」と両手を上げて喜んだ。
喜怒哀楽の表現がとてもわかりやすい人である。
水無月さんは「えへへ」と笑いながら、俺の一歩先を歩き始める。
「小野くんと〜会社帰りに〜居酒屋だ〜♪」
何気に5・7・5だった。その謎の音程さえなければ完璧だった。
水無月さんに続いて歩く俺に、振り返った彼女は笑顔で言う。
「あ、でもアレだね、小野くんが就職して常にスーツになったら、会社帰りに一緒に飲むって、特別じゃなくなっちゃうね?」
あはは、と。
無邪気に笑った水無月さんに、俺は「そうですね」と小さく返す。
水無月さんが隣に並ぶ。
俺はまた、歩幅を合わせて歩く。
……もしも。
就職が決まったとして、大学を卒業したとして、それから。
……ぐう、と。
突然、隣から聞こえたおなかの虫の鳴き声。
同時に「おなか空いたー!」と駄々をこね始める隣の水無月さんに、俺は思わず笑った。
考えかけていたことも、一緒に笑い始めた水無月さんの笑顔に掻き消されて、いつの間にか忘れた。


