「今日は早いですね、帰り」
夜ではない帰宅に俺が言うと、水無月さんは「うん」とうれしそうに頷く。
「今日は定時だよ!すごいよね!」
「そう…なんですか」
「あ、でもうちの会社はブラックじゃないよ!大丈夫!」
言いながら、水無月さんが右手の親指をグッと立てて見せる。
水無月さんがそう言うなら、大丈夫なのかもしれない、っていう謎の説得力がある。
なぜならこの人は何かあるとたいてい愚痴って飲んで次の日には忘れるような人だからで、会社の愚痴をそういえば聞いたことがないなって思っていたからだ。
同僚の愚痴は……よく、聞くけど。
「ふぃー。それにしてもおなかが空いて力が出ないよ!」
と、言いつつこの人いつもより元気な気がするのは俺の気のせいなのだろうか。
「小野くんおなか空かない?」
「え?あー……」
今の今まで忘れていたけど、そう言われるとおなかが空いている気がして、思い返せば今日は緊張のあまりちゃんとご飯食べてなかった、なんてことをふと。


