「小野くんただいま~」


連続で呼び鈴を鳴らされ渋々ドアを開けると、もはや見慣れたと言っても過言ではない姿がそこにあった。

きっちりスマートに着こなされたスーツ、そのタイトなスカートから伸びる足は細く。ストレートで栗色の髪の毛は胸元辺りまで伸びていて、小顔の彼女を更に際立たせている。

その上かなりの美人と来た。

普通だったら感激ものだ。仕事帰りにこうやって部屋を訪ねてきてくれる美人がいるとかどう考えても感激ものである。

しかし俺はと言えば、


「…………。はあー…………」


ため息しか出ない。

げんなりした表情を隠そうとかそういう意思ももはや消え失せている。

そんな俺の反応など知ったことではないのだろう彼女は、持っていた仕事用のバッグをこちらに突き出す。


「ふいー。今日も疲れた疲れたー。はい小野くん、これ」

「いや、これ、じゃなくて」

「もうねー今日も聞いて欲しい愚痴が山ほどなの!」

「はあ……」

「ってことなので、今からあたしの部屋へカモン!ビールとチューハイあるから!ね?」


ね?じゃない。

そのビールとチューハイ誰が買ってきたと思ってんすか。俺っすよ、俺。

とか言ってもこの人にはなんの意味もなさないので、俺は黙ってバッグを受け取ると、もう一度ため息をついた。

まだ大学の課題、残ってんだけどな…………。