「落としましたよ」



トイレから出ようとしたところで、背後から声を掛けられた。



「どうもすみませ……」



言いながら顔を上げたあたしは、途中で言葉に詰まった。



さっきリュウと一緒にいた女性が、愛想良く笑いながらあたしが落としたハンカチを手にしていたから。



綺麗な人……。



間近で見ると余計にそう思えて、拾ってくれたことに感謝はしたけど、同時に嫉妬心もますます膨らんだ。



「あ、ありがとうございます」



固まっていたあたしは、慌ててハンカチを受け取る。



「どういたしまして」



ふわりと柔らかく笑ったその女性は、「それじゃあ」と言い残してこの場を去った。



あたしはいつまでもそこから動けなくて、胸に感じる痛みにどう対処したらいいのかわからずにいた。