会計を済ませ 病院を出た時、 私は ほんの数秒間泣いた。 本当は、声を上げ、 道路に寝転び、 手足をばたつかせて 大声で泣きたかった。 しかし私は 嗚咽も漏らさず、 ただ数滴の涙を流して 静かに泣いた。 小さな子供のように 泣く事は、 もう叶わないのだから。 しかし私は邦男の前で 我慢できずに声を上げ、 泣き出してしまった。 まるでたった今初めて 母が亡くなった事実に 気づいたかのように。