あの秋。

私は五感のすべてが麻痺した状態で、

よろりとゆっくりふらめきながら

区役所へ向かった。

差し出された戸籍謄本の写しにある

母の名前には、当たり前ように

ピンとまっすぐに伸びた

黒い棒線が引かれていた。


悲しくも苦しくも寂しくも、ない。


すべてががらんどうだった。

涙も出ない。

丁寧にそれを折り畳み封筒に入れた。

そして再びゆっくりと、

涼しい風が吹く区役所からの坂道を、

ふくらはぎにぎゅっと力を込め、

降りていった。