「あのね、水曜日に櫂くんが教えてくれた数学の問題。似たようなのが小テストで出て全部解けたんだ。その報告もしたかったの」




「そっか。良かったね」





佑衣ちゃんが俺のことを見てるのが
わかる。



きっと嬉しそうに笑ってるんだろうな。




でも俺は見れない。
ただ傘を持って前を見てる。




また触れる。
少しずつ近づいていく別れの時。




もしこのまま俺が何も言わなくて明日もまた普通に放課後図書室で勉強会をすれば佑衣ちゃんの笑顔に会える。




またそんな1番卑怯なことを考える。




このまま足が動かなくなってしまえば
いいのに。





「櫂くん?」





「あ、ごめん。ちょっとバイトのこと考えてた」





「私こそごめん。バイト大変だね。昨日も呼び出されてたし。でも本屋さんって楽しそう」





「・・・・うん。楽しいよ」





「絵本とかもいっぱいあるもんね。私もそこで働きたいな。ってさすがにそれはちょっとストーカーちっくだね」




「そんなことないよ」





「・・・・櫂くん、やっぱり私迷惑だったかな?」





「そんなこと・・・・」




「だって櫂くん一回もこっち見てくれない」




ダメだ。・・・もう限界。
ごめん佑衣ちゃん・・・泣かないで。




俺は勢いのある雨の中持ってた傘を離して彼女を思いっきり抱きしめた。



冷たい雨が2人を濡らす。




「か、櫂くん?」






「佑衣ちゃん、ごめん。俺・・・彼女ができた」