「高瀬くん。悪いわね」




「いえいえ」




「今日、飯塚さんと2人でラストお願いしちゃうけどよろしくね」




交代のパートさんが帰って
俺とあの女だけ。



無視することに決めた。



仕事中はあいつも俺に事務的なことしか言ってこない。




早く終わらないかな。



こいつと一秒も同じ空気を
吸っていたくない。





あ、絵本。いつもなら可愛い瑞穂の笑顔が浮かぶのに今日は佑衣ちゃんの笑顔。




佑衣ちゃんが絵本読んでくれたら瑞穂も喜ぶだろうな。





「・・・おつかれさまです」





バックヤードでエプロンを外してあいつの顔も見ずに立ち去るつもりだった。




「待って。櫂」




扉の前に立つあいつ。
そして俺に抱きついてきた。




「やめてくれる?」




「やだ。櫂が好きなの」




腰に手を回して放さない。
俺は触れることも嫌でただ立ち尽くして
冷たい声で言葉を放つ。





「刺激がなくて妻子持ちと不倫してるやつにそんなこと言われても嬉しくもなんともない」





「櫂が彼氏になってくれたらやめる。求めてくれるから嬉しかったの。愛されてるって思いたかった。でも櫂が好きになってくれて彼女にしてくれるならもうあの人とは会わない」