「なんでもない」

「なんでもないって顔じゃない。

それ、落し物か?」


「・・・う、ん」

「それを落とした人は?」

「もういなくなっちゃった」

・・・

翔の問いかけに、返すことはできる。

だけど、

頭の中には、

私の目には、

さっきの人の顔が、

焼き付いて離れない・・・

だって、さっきの男の人は確かに、

彼に似ていた。

・・・

彼とは・・・・

・・・そう、園田先輩、その人に。

・・・

「冬美、帰ろう」

「・・・うん」

後ろ髪魅かれる思いで、

その場を後にした。