優しいひと

屋上を出ようと扉に手を掛けるとその手首を強く掴まれた



「樋口…」




久し振りに大好きだった声で呼ばれた私の名前



何ヶ月ぶりだろう




「痛いんだけど」




それでも私から出たのは酷く低く冷たい言葉だった



見上げた拓也の顔がもう私には映らない



「幸せになってね…」




思ってもない私の一言に私を掴む拓也の手がゆるむ



拓也の手を振りほどきもう振り返らない





気付いてしまったから…