何千という人たちがあふれる騒がしく賑わう町のすこしはずれ。

静かに民家が立ち並ぶ中、その店もまたひっそりと佇んでいる。

外から見た限りでは。



中に入ろうと近づくと夏に取り付けたであろう水色のガラス細工がリンリンと寒さを一層際立てるように鳴った。

三月の夕方はまだまだ寒い。


そっと猫足型の取っ手に手を掛けてドアを引いた。

カランカラン…


「ももこさん」

「あら、優子ちゃん。いらっしゃい」


中に入って声をかけると優しい笑顔でももこさんは迎えてくれた。

いつ見ても綺麗な出で立ちでかなりの美人。目が冴えるような、パアっと花が咲いたような、そんな明るさを持ち合わている。もう四十歳間近だとは到底思えない。


そんな美の下に生まれたような存在のももこさんは私の母親の幼なじみなのだ。
幼稚園の頃からずっと同じ学校で今でも週に二度は会っている親友。大の仲良し。


「はい、これ。お母さんから」


「あら、いつもありがとうね。」


私はももこさんにとお母さんに頼まれいたものを渡していつもの席に座った。


外から見た限りではお世辞にも綺麗とはいえないこのお店。
でも中には入るとかなり広さもあるしとても綺麗だ。
白と茶をベースに落ち着いた雰囲気で所々に大きく成長した観葉植物が置いてある。
私は自分の家よりもここにいるほうが落ち着くくらいゆったりとした時間が流れる。

小さい頃からほぼ毎日といっていいほど通っている。
大好きな場所。


…でも、それも今日で終わり。

残念なことにこのお店は今日で閉店になるから。

ももこさんの趣味でやっていたこの喫茶店。
なぜ閉めてしまうかというと、その理由は私のお母さんに関係している。

私のお母さんは建築デザイナーで、毎日忙しい日々を送っていた。
家事なんて一切しない(出来ない)し、仕事に命を懸けているような人。
そんな仕事人間のお母さんはある日家の玄関を開けると同時に突然言ったのだ。
「私仕事辞めてきたわ!」と。

全く予測できない母親だ。
いつもそう。
思い立ったら即行動なんだから。