「…雛、雛音。」
俺がそう言ったあと、驚いた表情で、
でもうれしそうに微笑む彼女。
涼平は相変わらずニヤニヤしていた。
入学から一週間。
名前で呼べるようになったり、
いつのまにか彼女の前でも”俺”を使ってしまったり。
涼平はベタベタしたり、
一緒に雑誌を読んだりと随分仲が良くなったようだ。
でもなぜか、彼女を好きになることに抵抗を感じる。
罪悪感を感じる。
そして、彼女の微笑みは、
その罪悪感を消してくれるような気さえした。
”今のままじゃ、お前は前に進めないだろうし、
ひなちゃんとゴールインも無理だろうね。”
涼平の言った言葉を思い出す。
きっと、そのことに関係がある。
桜模様の日記を握りしめた彼女の幸せそうな表情だけが、
心の休まる時間だった。